2012年4月16日月曜日

Japanese Uilleann Pipes Page


Japanese Uilleann Pipes Page

謝辞 

 このページを作成するにあたり、我が国におけるイリアン・パイプのパイオニアにして第一人者 原口トヨアキ氏から多くのアドバイスをいただいた。また「どうやって手に入れるか」「どうやって習うか」は、原口氏より頂戴したメールをもとにしたものである。

格言

 It takes 21 years to learn to play pipes - seven years to learn the instrument, another seven to learn the tunes and yet another seven to learn the music.
 (ちなみに、ハイランド・パイパーには、7年の修行との家系が必要。)

 弘法は筆を選ばず。(初心者はいい楽器を持てという意味)

地口

 おそれいりやのイリアン・パイプ。


 ぼくはウナギだ。
 注:piper=piobaire(ウナギのようなもの)

 HIRASAWA Keiko氏撮影
 2001年6月16日 天王洲「ラウンドストーン」にて

 楽器はR.J.Hughes氏作成のハーフセットD管。
 ベローズはAlex Hughes氏、チャンターはKeith Powel氏作成。
 (普段はDave William氏作成のチャンターを使用している)

 TSURUHASHI Toshihiro, the author of this web.
 Playing the half set by R.J.Hughes, the chanter by Dave Williams
 Photograph by Miss HIRASAWA Keiko, my friend
 At 'The Roundstone' of Tokyo, 16th June 2001


 2003年 四谷モリガンズにて

 演奏している楽器は、Alain Froment 氏によるフル・セット。

1.序説

1.1 どう読むか

 "uilleann"とはアイルランド語で「肘」の意味である。アイルランド語には標準語がなく、「イリン」「イルン」「イリアン」「イーリャン」「イラン」などと発音されている(ように聞こえる)。日本での表記も、上記以外に、「イラーン」なども見られる。しかし、「イ」「ラ行音」「ン」という連続であるという点は共通している。長音が挿入されるのは、強勢を表現しているのであろう。
 名手ブライアン・マクナマラの発音は、「イ+リ・ル・レの中間+ン」と聞こえた。(アクセントは忘れてしまった)いずれにせよ、実際の発音がまちまちである以上、「私にはこう聞こえた」と主張しても始まらないし、どれをとっても「違う」� ��は言えないので、ここでは様々な出版物で行われている「イリアン」の表記を採ることにした。日本人以外で、日本式に「い・り・あ・ん」と4拍に発音しているのを聞いたことはないが、日本語の文の中で使われるのであれば、一向に問題はない。
 ちなみに、NHKのドラマ「徳川葵三代」のエンディングで、デイビー・スピラーンの演奏に「イラーン・パイプ」と出ているが、この楽器のことである。
 プロのアイリッシュ・ミュージシャンにして、アイルランド音楽の研究家である守安功氏によれば、この楽器に限っては「パイプス」と常に複数形で表記されるそうである。しかし、日本語の外来語は複数形語尾を落とすことが多いので「パイプ」と書いても見逃していただきたい。「アイリッシュ・パイプ」「ユニオン� ��パイプ」ともいう。なお、アイルランドでは、この楽器のことを「バグパイプ」とは呼ばない。

1.2 イリアン・パイプス小史

 今日のイリアン・パイプスの直接の祖先は18世紀初頭に現れたと言われている。18世紀中葉、最初の教則本 John Geoghegan "The complete Tutor for the Pastral or New Bagpipe"がロンドンで出版された。この当時の楽器は、ドローンが二本のふいご式のものであった。チャンターは、継ぎ足し管が付いた、今日のものより長いものであった。
 19世紀に入り、1本のレギュレーターが加えられたものが、スコットランド及びイングランド北部で使われた。これはアイルランド人によってもたらされたものと伝えられている。
 3本のドローンと3本のレギュレーターの、今日の構成になったのは19世紀初頭のことである。当時のメーカーとして著名なのは、Timothy Kenna、Thoma Kenna 親子である。当時の楽器はチャンターの内径が小さく、音が小さいものだった。音程は低く、B♭・B・C・C♯管が作られていた。
 19世紀には多くの改良が加えられた。米国フィラデルフィアのテイラー兄弟は、コンサート・ホールでつかえるように、チャンターの内径と穴を大きくした、大きな音のでる楽器を作った。今日一般的な、コンサート・ピッチ(現代ピッチ A=440Hz)D管(単に「コンサート・ピッチ」「コンサートD」とも)と呼ばれるものの嚆矢である。それ以前のものは、現在、フラット・セットと呼ばれている。

  参考文献:キアラン・カーソン著、守安功訳『アイルランド音楽への招待』(1998.10、音楽之友社)

1.3 NPU

  Na Piobairi Uilleann (The Uilleann Pipers)。イリアン・パイプ協会。この読み方について、クレアの踊りの名手エーデン・ボーハン氏に訊ねてみたところ「ナ・ピブリ・イルン」と聞こえた。なお、このページも含め本webのアイルランド語は、本来付けるべきアクセント記号(ファーダ)を付けていない。
 1968年、アイルランド、ダブリンに創設された。パイパーの指導と活動の支援、特に若手の育成を目的とする。機関誌は"An Piobaire"。96年当時、日本人会員は4、5名であった。
 会員の主な特典は、機関誌がもらえることと、CDなどが会員価格で手に入ることなど。特に機関誌は、パイパーやパイプ情報を渇望する人とってに有益な情報が得られる。英語の勉強にも役立つ。CDの新譜情報などもあり、パイパーを志す人はもとよりパイプに関心のある人には入会を勧める。
   住所 15 Henrietta Street, Dublin 1, Ireland
   電話 01-8730093
  URL  ht


外装窓からヘイズをきれいにする方法

2.楽器に関して

2.1 イリアン・パイプスの構成

 イリアン・パイプスは、リード楽器で、他のバグパイプと同様、メロディーを奏でるチャンター、一定の音を出し続けるドローン、空気をためるバッグなどで構成される。バッグへの空気の供給はふいごによる。他に、イリアン・パイプ独特(イリアン・パイプだけではないが)の部品として、レギュレーターがある。
 イリアン・パイプはパイプを構成する部品によって、
   プラクティス・セット    チャンター、バッグ、ふいご
   ハーフ・セット       チャンター、バッグ、ふいご、ドローン
   フル・セット         チャンター、バッグ、ふいご、ドローン、レギュレーター
と呼ばれている。この他に、3/4セット(スリー・クオーター・セット、フル・セットから、バス・レギュレーターを除いたもの)などもある。何れも部品は共通で、ハイランド・パイプなどのように練習専用の笛は無い。(メーカーによっては、プラクティス・セットのパーツのグレードを落としている場合もある)
 チャンターの音域は約2オクターブで、D管の場合E'より上をハイ・オクターブ、下をロー・オクターブなどと言う。指使いや、オプションのキーによって半音が出る。ドローンのチューニング等のためにストップ・キー(スイッチ)を付けることもある。チャンターの形状はオープン・エンドであるが、先端の穴を腿の上に立てて塞いだり離 したりして、スタッカート、レガート何れの奏法も可能である。
 ドローンは、テナー、バリトン、バスの3本。バッグに取り付ける部品をストック(メイン・ストック)と言い、ここにストップ・キー(スイッチ)が付いており、ドローンを鳴らしたり止めたりできる。
 フル・セットには、3本のレギュレーターが付いている。必要に応じてキーを押して鳴らす。
 リードは、他の多くの種類のバグパイプと同様、チャンターがダブル・リード、ドローンがシングル・リードである。レギュレーターはダブル・リードである。
(用語については、ハイランド・パイプのページを参照されたい。)

2.2 楽器の素材

 チャンターやドローン、レギュレーターなどによく使われている木材は、エボニー� ��黒檀)やブラック・ウッドで、特にチャンターはエボニーが好まれている。他に、ローズ・ウッド(紫檀)、ボックス・ウッド(柘植)など。木材によって音色が違う。
 金属部分には、真鍮がよく使われている。日本ではさびやすいが、ラッカー仕上げをしてくれるメーカーはあるかどうか分からない。ステンレスや銀なども使われる。銀は当然値段が高い。金属の違いが音色に影響するかは不明。
 バッグの革は、カウ・ハイドがよく使われるようである。手で縫ったものと鋲留めのものがあるが、個人的には手縫いの方がいいと思う。革製の他、ゴムやゴアテックスのものもある。ゴアテックスのものは使ったことがないので、その性能は分からないが、ハイランド・パイプの場合ほどには普及していないようである。


2.3 どうやって手に入れるか

 製作者から直接買うのが普通。楽器店に問い合わせても無駄だと思う。輸入代行をしてくれる業者も無いわけではないが、どのような楽器を仲介してくれるかは分からない。また、当然割高になることは覚悟しなくてはならない。
 NPUは、メーカーのリストを出している。ただし、保証はしていない。実際、NPUのリストに載っている、ある米国のメーカー(このWeb上のメーカー・リストからは省いた)で、金だけ取って品物を送らない、問い合わせにも応じない、という例があると聞いている。プラクティス・セットでも10万円程度(フル・セットは40万円以上。現在知っている最も高額のパイプは、IL£6,000!)と決して安くないので、実際にパイパ� ��から、できるだけ新しい情報を得ることが必須である。信頼できる筋からの口コミ情報に頼るのが無難である。可能であれば、買った人の意見を聞いた方がいい。言うまでもないが、ネット上の情報は、その送り手の信頼性を熟慮すべきである。(もちろん、このwebも。)
 楽器を選ぶ際、注意すべきことは自分の体に合っているかどうかである。つまり、ふいごとバッグをつなぐ管の長さや、バックからチャンター迄の長さ等が体に合っているかどうかが重要である。製作者に会って注文するのがベストと思うが、メール・オーダーの場合、最初はとりあえず購入し、その後、自分で調整するか、メーカーに自分の体に合うよう各部品を作り替えてもらうしか方法はないようである。他に、製作者によって、� �ャンターの太さや穴の間隔に若干の違いがある。また、バッグは、もちろん後から交換可能であるが、素材もいろいろあり、縫製にも手縫いと鋲留めとある。気になる場合は、オーダーの際確認した方が良いと思う。なお、NPUのリストには載っていないが、ハイランド・パイプのバッグを専門に扱っているメーカーの中には、イリアン・パイプスのバッグも作っているところがある。注文する際にはサイズ、特にチャンター・ストック取り付け位置の径を確認する必要がある。
 もう一つ重要なのは、パイプ・メーカーがまともなリードを作れるかどうかということである。きれいなパイプは作れても良いリードを作れないメーカーは沢山ある。楽器に合わせたリードを作ってくれる人もいるにはいるが、基本的に、あるメー カーのチャンターにあうリードは、チャンターを作ったメーカーのリードだけである。
 また、最初に購入するのは、資金力に余裕があってもフルセットだけは止めておいたほうが失敗が少ない。
 楽器は受注生産がほとんどなので、人気のある製作者のものを手に入れるには、新品の場合何年も待たなければならないようである。中には在庫を持っているメーカーもあるが、比較的納期の短いメーカーでも、ハーフ・セットで半年くらいは待たされる。しかも、約束の期限にはたいぶ遅れるのが普通のようである。最近、ある映画・ショーの影響で、イリアン・パイプに限らずフルート等アイルランド音楽の楽器の需要が急増し、価格も納期も大幅にアップしているようである。

2.4 楽器以外に用意すべきもの

 演奏に必要、またはあった方が便利なアクセサリーなどを以下にあげておく。


ラウンドトップ具体的な表
○ポッピング・ストラップ(パイパーズ・エプロン)
チャンターを膝の上に立てる際、ベル(チャンターの下の先端部分)から空気がもれないようにするもの。使わない人もいるが、使った方が2オクターブ目が出しやすく、スタッカート奏法にも効果がある。
普通、20cm角以上の皮。普通表革を上にする。ただ載せるだけの人、太股全体に巻く人、ゴムバンドで固定する人など様々。要は上記の目的を達すればよい。ベルにバルブが付いていれば不要。材料は、手芸用品などの店で買うか、使い古したバッグなどを再利用する。
○ストラップ
メイン・ストックを支えるために肩にかける吊り紐。使わない人もいる。革ひも、布製のベルト、ギターのストラップなどが使われる。私は、東急ハンズ新宿店で買った、� �.5cm幅の布製のベルトで作った。ちなみに私は、なで肩なので、ずり落ち防止のため、肩に当たる部分に液体ゴムを塗っている。
○大型クリップ
ドローンのチューニングの際、バッグのチャンターのストック近くを挟んでチャンターへの空気の流入を止める。使えないバッグもある。チャンターにストップ・キーが付いている場合は不要。
○ヘンプ
リード、ジョイント部分に巻く麻紐。ワックス(ビーズ・ワックス)済みのものが便利。
ハイランド・パイプの店から取り寄せるのが早い。私は、グラスゴーのThe College of Pipingから買っている。ビーズ・ワックスは、例えば新宿のJDRIなど、ダブル・リード楽器の専門店で買える。ヘンプの以外に、リンネル、ナイロン糸、デンタル・テープ/フロスなどを使う人もいる。これらの方がヘンプより糸の太さが均一である。
○デンタル・テープ/デンタル・フロス
リード、ジョイント部分などに巻く。湿気の影響がなく、ヘンプよりもゆるまないが、楽器の収縮を吸収する点ではヘンプなどに劣る。
ワックスされているものといないものとがあるが、ワックス済みが便利。テープの方がフロスより幅広で使いやすいと思う。
フロスは、三千里薬局やマツキヨなど、たいがいのドラッグストアで買えるが、テープの方はあまり見かけない。知っている範囲では、Bootsと東急ハンズ新宿� ��にデンタル・テープが置いてあった。
ヘンプより高価だが、歯医者から盗むのは良くない。
○融着テープ
ストックとバッグのつなぎ目部分などのリーク対策に有用。Scotch社製のものが優れている。DIYショップで売っている。
○シール・テープ(TFTテープ)
空気漏れの応急処置や、リードの調整などに便利。DIYショップの水道用品売場などで買える。
○セロ・テープ
音程が高いときなど、チャンターのノート・ホールに貼る。
○マニュキュア
パイパーの爪を美しく彩るだけでなく、リードの横からの漏れをふさぐのにも利用できる。ただし、使用には注意を要する。

2.5 簡単なメインテナンス

 めでたくパイプが手元に届いても、すぐにはちゃんと鳴らないことがある。そういう場合、半完成品だと思って調整すべきである。この楽器は、ある程度自分で調整する気がないと扱えないと思った方がいい。金と暇と労力とを惜しむ人は、手を出さない方が無難である。もちろん、チャンターの音程など、致命的な欠陥は、メーカーにどんどんクレームを付けるべきである。ちゃんとしたメーカーなら誠実に対応してくれる。
 リード以外のよくあるトラブルについて、簡単な対処法を以下にあげておく。ただし、個人的に行っているやり方の一例を示すまでで、結果には責任を負わない。

○リーク(空気漏れ)
 リークは、音程が不安定になったり、音を出すのが大変になったりと、演奏に大きな影響を与える。最初からリークをおこしていたという例も聞いたこともある。革製のバッグは、以下の方法で、比較的簡単に直すことができる。
1.バッグの空気漏れ...縫い目が解れていたら縫い直す。バッグ自体からのリークや、バッグとストックとのつなぎ目部分からのリークは、ラテックスなどでバッグ内部のコーティングを行う。革は細かな穴があるので、原則的に革製のバッグは内部のコーティングが必須である。革に処理を施して販売しているメーカーもある。
2.ジョイント部分...ヘンプなど糸の巻きがゆるい場合は、巻き足すかワックスを糸に塗る。または水道用シール・テー� ��を巻く。(巻きすぎないこと)パーツのつなぎ目からのリークは、融着テープを巻く。何回か抜き差しを繰り返しているうちに、緩くなる場合がある。そういう場合は、ほどいて巻き直せばよい。
チャンターやドローンのジョイント部のリークは、演奏に大きな影響を与える。ただ、膨張を考慮しきつく巻きすぎないことにも留意しなければならない。
3.ストック部分...ラテックスなどでバッグ中からコーティングを行う。外からは融着テープを巻く。
※ラテックス、融着テープは、東急ハンズなどDIYショップで手に入る。

○空気の逆流
 ベローズから供給した空気がベローズに逆流することがある。演奏者の側、つまりベローズとバッグとの押し方に問題がある場合もあるようだが、楽器自体の原� ��としてはブロー・パイプのバルブに問題がある場合がある。
 ブロー・パイプのバッグ側の先端には、逆流防止の革・ゴム製のバルブが付いている。ベローズから空気を送っている時以外は、ブロー・パイプの穴を塞いでいなければならないが、バルブが穴を完全に塞がないと空気の逆流が起こる。
 対策としては、バルブの向きを変える、革のバルブににはアーモンド・オイルなどを塗る、バルブの動きが悪い場合は、蝶番部分の皮を薄くする(やりすぎないように)、などの方法がある。(写真参照)
 バルブは、レザー・クラフトの店から材料を買ってくれば簡単に作ることができる。
 ハイランド・パイプによく使われている「リトル・マック」というバルブが付けられていることもある。逆流には効果的だが、ベ ローズを押す際抵抗感があるようである。また、バッグに空気がいっぱいになっていない時、バルブが震えてグーグー音が鳴ることがある。



2.6 FRAGILE!HANDLE WITH CARE(失敗談)


優れた真鍮製のクリーナーは何ですか?

 筆者は、ハーフ・セットを、ハイランド・パイプ用のソフト・ケースに入れて持ち歩いていた。しかし、これがとんでもない事態を招いた。

その1.ドローンに横から無理な力が加わり...折れた!木材用強力ボンドで接着、融着テープを巻いておいた。
その2.激しい空気漏れがしたので見たら、バッグに5mmほどの裂け目があった。内側から裂け目を接着剤でくっつけ、外側から二重に革をあてて穴をふさいだ。原因は、ストックのエッジ部分がバッグを内側から傷つけていたことにあったようである。楽器は、縦に長い時間持たない方が無難なようである。ちなみに、バッグを交換した時、ストックのエッジをヤスリで面取りしておいた。
その3.ドローン・スイッチが動かなくなった。ケースの中で、アーモンド・オイルが漏れて、シャフトの周りのコルクを濡らしたのが原因。シャフトに「敷居滑り」を塗って解決。

これら全ての原因は、ケースにあったもよう。イリアン・パイプスはデリケートなので、ハード・ケースに入れた方がよさそうである。たいがいのメーカーは、立派な体躯に相応しい重くて頑丈なケースを付けてくれる。

2.7 気候

 イリアン・パイプスは、気候、特に湿度に敏感な楽器である。特にチャンターのリードは湿度の影響を受けやすい。あるヴィルトゥオーソは、60%くらいが最適と言っていたが、楽器によってまちまちであろう。乾燥する冬季は、適度に加湿した方が楽器のためにも体のためにもいい。ただ、過度の加湿は楽器にダメージを与えることが想像される。夏期のクーラーも難敵である。
 演奏環境をいつも自分の都合のいいように保つことは、まあ不可能であろう。乾燥しすぎてい� ��場合は、濡れた布をベローズの空気取り入れ穴にかぶせるなどの工夫をしている人もいる。また、新宿の日本ダブルリードでは、オーボエなどのケースに入れる小型の「加湿ケース」という商品を売っている。湿度を50%くらいに保ってくれるそうである。試したところ、たしかに幾分か湿度が上がった。ケース内の容積や密閉度によって効果は異なると思うが、たぶんパイプのケースには、少なくとも複数個は要ると思う。試す価値はあろう。
 楽器を損なわない範囲で自分なりの方法を試してみたり、人の意見を聞いたりするのが必要であろう。様々なアイデアを出し合うのもパイパー同士の交歓の楽しみである。

3.演奏について

3.1 どうやって習うか

 一番良のは、アイルランド やアメリカで基本的な講習を受ける事だが、現在では結構良いチューター類が出されているので、それらの利用も可能である。例えば、NPUから取り寄せられるチュ−ター類は、
   NPU "The Art of Uilleann Piping Vol.1" (ビデオ)
   H.J.Clarke "The New Approach to Uilleann Piping" (教則本)
   Seamus Ennis "The Master's Touch"
   Eddie Climo (1996) "A Handbook for Uilleann Pipers"
などがある。他に、
   Danis Brooks "Irish Union Ppies"
などもある。これらは何れも、パイパーにとってはバイブル的な存在である。パイプのために何週間も外国に行けるような恵まれた境遇の人はそう多くはないだろう。NPUの機関誌とともに、これらのチューターは独学者にとって「海の星」である。
 しかし、メインテナンスの問題は、初心者では解決が不可能。特に、一番時間を取られるのはリードの調整で、特に日本のように四季があり日によって湿度、温度が変わる地域では練習の最初はリードの調整で始まるといっても過言ではない。多くのパイパーを志す人々が、まともに鳴らない(調整出来ないから鳴らない)リードを罵りながら挫折していったか、数知れない。独学の場合、まず最初にまともに鳴るチャンター・リードを作ることが出来るメーカーを選択する ことが必要と言える。
 また、最初はホイッスルで基礎的な指の動かしかたを習得しておくのが良い。

3.2 フィンガリング


 伝統音楽の楽器は、指を伸ばして演奏するものが多い。イリアン・パイプスも例外ではないが、楽器の持ち方が少々変わっているので、チューターをよく見ておく必要がある。
 フィンガリングには、クローズド・フィンガリングとオープン・フィンガリングとがある。前者は一番下とその半音上の二つの音以外膝にチャンターを立てて演奏する。後者は膝からチャンターを離す。
以下に記したのは、クローズド・フィンガリングのロー・オクターブの運指表(D管、右利き用)である。表には、五線譜の下第一間のレ(ボトムDという)からオクターブ上のレ(バックD・ミドルDなどという)までをあげたが、人によって、または楽器によって若干異なる場合がある。
 なお� ��イリアン・パイプは、平均律ではなく純正調で調律されている。例えば、F#・B・D#の音程が平均律よりかなり低く、古い音楽のスタイルをとどめている。
 同一の音で異なるフィンガリングは、音程・響きなどが異なる場合がある。例えば、バックDの二つ目で1の指を開けるのは、次に来る音のピッチが下がらないようにするためである。しかし、実際の効果はチャンターによって異なるようである。
 ボトムDは、同じ指使いで、ソフトDとハードDの2種類がある。ソフトDはハードDに比べて若干ピッチが低い。ハードDは、チャンターを膝から離す直前に3の指を開け、Aで装飾音を付けるようにすると出る。チャンターによっては、出にくい、または保ちにくい場合がある。その際は、3.3「○紙・セルロイ� ��などをベルに入れる」で示した方法を試されたい。
 オープン・フィンガリングは、基本的に、D#以外は7を閉じ、下から順番に開けていく。(ホイッスルとほぼ同じ)ただし、ちゃんとした音程が得られるとは限らない。チャンターによっても様々のようである。
 表の右端に「K」とあるのはキーを押して出す音である(Fの三番目・G#・A#・Cの三番目)。それぞれのキーは
  F・・・右手の薬指または左手の小指
  G#・・・右手の親指または左手の小指
  A#・・・右手の人差し指または左手の小指
  C・・・右手の親指
で押す。ただし、楽器や手の大きさによってはこの限りでない。
 E'以降、ハイ・オクターブの音は、B'までロー・オクターブと同様のフィンガリングであ� ��。それ以上は使ったことがないので覚えていない。G'から上の音は、バッグの空気圧を上げるだけでは、楽器によっては出にくいことがある。その際、以下のようにする人もいるらしい。(※は、誰かのチューターに典拠の見られたもの。それ以外は聞いた話か自分で見つけたもの。)
  G'・・・5、4と順番に開ける。※
  A'・・・3を開ける直前に4を開け、すばやく4を閉じる。
      または、3を開ける直前に5を開け、すばやく5を閉じる。※
  B'・・・2・3を開ける直前に4を開け、すばやく4を閉じる。
      または、2・3を開ける直前に5を開け、すばやく5を閉じる。※
      または、2・3を開ける直前に5、4を順番に開け、すばやく5、4を閉じる� �
要するに、F#またはGの装飾音を付けるようにする。(他のやりかたもあるらしいが未確認)

        左手 | 右手 |
     0 123  4567 膝
 
D   ●|●●● |●●●●|○
 D#  ●|●●● |●●●○|○
 E   ●|●●● |●●○○|●
 F   ●|●●● |●○●●|○
     ●|●●● |●◎○○|●
     ●|●●● |●●○○|● K
 F#  ●|●●● |●○●●|●
 G   ●|●●● |○○●●|●
 G#  ●|●●● |○○●●|● K
 A   ●|●●○ |●●●●|●
 A#  ●|●●○ |○●●●|● K
 B   ●|●○○ |●●●●|●
 C   ●|○●● |●○●●|●
     ●|○●● |●○○●|●
    � ��●|○●● |○○●●|●
     ●|●○○ |●●●●|● K
 C#  ●|○●● |●●●●|●
 D'  ○|●●● |●●●●|●
     ○|○●● |●●●●|●


○は開 ●は閉 ◎は半開、下半分を開ける
 左から、左手親指|左手|右手|チャンターのボトム

 

 音程の高低は、その原因の多くがリードに起因する。初心者にリードの調整は不可能であることは上に書いたとおりである。下にあげたように、リードをいじらないで音程を調整する方法もあるが、詳しくは、Eddie Climoのハンドブック及び下記の書などを参照されたい。ただし、チャンターの穴をちゃんと押さえていないために、音程が不安定になる場合もあるので、先ずこの点をチェックすべきである。

  Dave Hagarty "The Uilleann Pipe Reedmaker's Guidance Manual"
  ("Reedmaking Made Easy"の増補改訂第三版)

3.3 チューニング

 ここでは、リードをいじらないで、初心者でもできる簡単なチャンターのチューニングについて書いておく。
 先ず、リードはチャンターにまっすぐ、隙間無く挿入されていなければならない。音程がふらつく場合は、だいたいこれが原因である。
 基本的に、リードをチャンターに深く差し込めばピッチが高くなり、逆に抜けば低くなる。これは、リードに巻いてある糸で調節する。巻きを減らせば深く挿入でき、巻き足せば浅くなる。この際、上に触れたように、まっすぐ隙間無く挿入することに留意する必要がある。
 リードについているブライドルという金属製の帯を上にずらすか横からプライヤーで押すことによってリードの口が開く。口を開ける� ��音程・音量が上がり、閉じると下がる。ただし、これはむしろ鳴りを最適にするためで、最適な位置は限られる。調整範囲もわずかなようである。
 個々の音を調整するには、以下の方法がある。


○テープを貼る
 ノート・ホールの上部にセロ・テープを貼ると、音程が下がる。穴に溶かしたワックスを付けて、内径を小さくする方法もあるが、とりあえず、最も簡便な方法である。
○ラッシュ(rushing)
 チャンターの内径を狭くすると音程が下がる。材料は、真鍮の棒・竹ひご・焼き鳥の串など。太いほど音程が下がるのは言うまでもない。ラッシュをチャンターに挿入すると、ラッシュが達したノート・ホールまでの音程が下がる。落ちないように、ラッシュの下部を三角に折っておく、または折ったものをくっつける必要がある。(写真参照)
ただし、音量や音色などに影響することもあるようである。
○紙・セルロイドなどをベルに入れる
 ボトムDの音程を下げるには、紙を� ��いてベルに挿入する。
 または、長さ2.5cm位のセルロイドの板などを「ヘ」の字に曲げてベルに挿入する。ハードDを出すのにも有効。プラスチックのトランプ、フィルムのケース、クレジットカードなども可。ダイナースやゴールドカードはリッチな音になるという噂。(写真参照)

3.4 装飾音など

 イリアン・パイプスには、クリップ、グレイス・ノート、ロール、クラン、トリプレット、ポッピング、スライド...などといろいろな装飾音がある。先生や教則本からこれら装飾音を学ぶのは楽しい体験である。しかし、それらをどう使うかは各自の問題である。音楽とテクニックとは同義語ではないのである。それ故に、またパイプは楽しい楽器である。

おわりに

 我が国において、イリアン・パイプスの習得を志す人のための情報は、決して豊富とは言えない。先達はあらまほしきことである。しかし、試行錯誤の末得られた経験こそが、最も正確で役に立つ情報であるかもしれない。

     成功を祈る!



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