加熱するための熱源は電気、ガス(都市ガス・プロパンガス)、油類が広く用いられます。 雰囲気調整や温度コントロールが容易なことで電気炉の割合が多いようですが、大きな炉では都市ガスや燃料油などの熱源が多用されています。 その場合には、直接品物に炎を当てると、肌荒れや変質が生じやすいために、直接熱源を品物に接触させないようにラジアントチューブなどを用いて間接加熱する工夫などがされていますが、危険物対策や公害防止対策のために灯油や重油の加熱設備を都市ガスや電気に変えていく傾向もみられます。
電気加熱は、一般熱処理では、もっぱら抵抗加熱(ニクロム線などに電流を流し、電流の熱作用で加熱する)を利用します。電気の誘導加熱を利用して表面焼入れをする高周波焼入れも広く行われています。(ここでは、全体加熱を中心に説明していますので、誘導加熱は省略します)
一般熱処理の焼入れ用途では、耐熱性や耐久性、ランニングコストの面から、1100℃以下で用いるものと、それ以上(約1300℃以下)の温度で用いる場合に区別されることが多く、高温用の設備は炉材、メンテナンス費用ともに高価なものになります。
加熱炉のタイプとしては、一定量の品物を一括して処理する「バッチ炉」があります。 これは品物を横に出し入れするタイプで、炉床が固定式のものや台車で出し入れするものがあります。品物を上下に出し入れする竪型の「ピット炉」と呼ばれる加熱設備も多く使用されています。 これらに対して「連続炉」と呼ばれる、加熱室内を品物が移動しながら加熱するタイプの炉があります。
炉の容積表示では炉内の有効寸法を表示されることが多いようですが、一定の温度精度を保証した「有効加熱帯」寸法が品物の装入寸法として重要になります。 有効加熱帯の温度精度は、熱処理の種類によってJISなどで定めれれており、定期的に検査をして、焼入れ炉に対しては±10℃、焼戻し炉は±5℃などのように管理されています。
温度の正確さについては国家標準に対するトレーサビリティーが要求されますので、社内用の標準計測器や熱電対類などの測温機器を定期的に管理する必要があります。しかし、これらの目に見えない管理費用は増す傾向にあります。
また、雰囲気の管理も重要です。
鋼を大気中で加熱しますと、200℃ぐらいから品物表面の酸化が始まります。また、500℃をこえてきますと、表面の酸化物が被膜となって固着し、800℃を超えると、鋼中の炭素分を下げてしまう「脱炭」が発生します。
どのようにILヒーターが動作する
「酸化・脱炭」を防止するために、原因となる酸素を脱気して加熱する「真空炉」や、大気を窒素ガスなどの不活性ガスに置換する「無酸化雰囲気炉」、脱炭を防止するために雰囲気ガスを流入する「雰囲気炉」などのほか、加熱中に空気と触れないように塩化バリウムや塩化ナトリウムなどの混合塩類を溶融させた中で加熱する「ソルトバス」などが利用されます。
「真空炉」においては、宇宙の真空のような高真空になると、高温で鋼の成分が飛散して不都合が生じるために、現在の熱処理用真空炉では適度な脱気をし、加熱効率を増すためにキャリヤガスと呼ばれる窒素ガスなどの不活性ガスを用いるなどの工夫がされており、多くのタイプは油冷ではなく大量の窒素ガスを加圧して炉内に流入させることで焼入れ冷却をしており、白鼠色のきれいな金属光沢で熱処理できるために、現在の工具鋼熱処理の主流になっています。
真空炉による熱処理は「ひずみが少ない」「最高の熱処理」などとPRされているところもありますが、設備的なものだけでそれが達成できるはずはありません。目的の熱処理をするには操作技術、熱処理技術が重要なのは言うまでもありません。
ここで、無酸化状態で熱処理できるソルトバスについて簡単に説明します。
当社のソルトバスで350℃までに使用するものは、シースヒーター(発熱体を保護管内に封入したもの)が槽内にセットしてあって、それによって加熱するタイプで、マルクエンチなど焼入れ冷却用に使用するのものは冷却を早めるために攪拌機と温度調節機能(強制水冷装置など)が備わっています。 1000℃までの加熱用には槽の外側から加熱する外熱型ですが、高速度鋼(ハイス)などの焼入れ用の高温用ソルトバスは、ソルト液を抵抗体とみなして、直接電極を差し込んで加熱する「直熱式」を採用しています。
攪拌装置がないものでも、加熱によって槽内の液状となったソルトが対流しており、温度分布は良好です。
使用するソルトは中性の無害のものですが、その飛散や廃液の処理については、環境を汚染することのないようにする必要があります。
最近は高級鋼に対しては「真空炉」が使用される割合が増えています。多くの真空炉では冷却(焼入れ)する際に、大気圧の数倍の圧力の高い不活性な窒素ガスを炉中に多量に流して冷却するタイプが多く(「加圧冷却」と呼ばれます) これによって酸化スケールなどが生成しない状態で冷却速度を高めて焼入れすることができます。
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近年、このタイプは油焼入れと同等の冷却能力を持っているとされますが、品物の曲りや風圧の影響を避けるために、冷却するためのガス量を制限することが多く、一般的には油冷するほどには冷却速度が速くないと考えたほうがよいでしょう。
今後は、油の温度をコントロールして油冷をしたり、冷却過程をガス制御出来るものなど、この分野の性能が向上して、幅広い熱処理ができるようになることが期待されています。
一般の真空炉は、操業効率を高めるために、大型化する傾向がありますので、混載で熱処理される可能性のある小口のロットに対しては、塩を溶かした槽を用いて加熱冷却する「ソルトバス(熱浴)熱処理」をお勧めしています。
ソルトバス熱処理は塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどの中性塩を加熱して溶融した中に品物を浸漬して加熱冷却するので、空気に触れず、ソルト液の浮力で自重の影響が軽減されたり、ソルト自体もほとんど金属と反応しないために、品物の肌荒れや変質を防いで熱処理ができるという特徴があります。
また硬化する直前の温度域のソルト浴中に焼入れする等の操作によって、焼き割れや焼曲りが少ないことや、ソルト冷却中の冷却速度も油冷に近いという優れた特徴があります。
ソルトバスを用いると、焼の入リ始める温度(Ms点といいます)の少し上で保持して恒温変態を利用する「マルクエンチ」と呼ぶ特殊な焼入れ方法ができるほか、オーステンパーと言われる熱浴ならではの独特の温度冷却コントロールができるという特徴もあります。
1100℃を超える温度で焼入される高速度鋼(ハイス:High speed steel)などは、永年にわたってこの「ソルトバス」で熱処理されてきましたが、近年では、真空炉に移行しつつあります。真空炉では、仕上がった表面の色が金属光沢をして美しいことや熱処理のクリーンさが買われているのが、その理由でしょう。
真空炉はガス冷却が主流であり、このために油焼入れやソルトバス焼入れに比べて冷却速度が遅いので、少し大きな品物になると、硬さが規定値にあっても機械的性質が劣化するというケースが発生する可能性があります。 また、いろいろな品物を混載して一括に処理されることも多く、焼入れ保持時間が適正でない熱処理になってしまう場合もありますので気をつける必要があります。
この欠点については、組織試験や機械試験をするか、使ってみないと優劣がわからないという厄介なものです。
高周波電源やレーザーを用いて表面を加熱する方法は、工具鋼などの高合金鋼に対してはほとんど行われていないようですので、説明は割愛します。
SYSTECことができます
真空炉
ソルトバス
先に述べた真空炉や雰囲気炉では、炉内でガスによる冷却をしたり、油冷装置を内蔵しているものもあって、焼入れ加熱から冷却(焼入れ)までを同一炉内で完了し、場合によっては同じ炉で焼戻しまで行うこともできます。 これらはプログラム運転をすることができるために、無人運転されるものも多いようです。
それ以外の焼入れ加熱後の冷却には、水冷槽や油槽やソルトバスを用いたり、、扇風機を用いて強制冷却することで冷却速度を変えて冷却します。 もっと冷却を遅くするには大気中に放出するだけの場合や炉内でゆっくりと冷却させることもありますが、品物の大きさや形状、材質、硬さなどで冷却方法を決めます。 特に焼入れの場合には、冷却温度域に対して、冷却を速くしたい場合や、冷却速度を可変したい場合があります。そういう場合には、油槽と水槽を併用したり、冷却途中で引き上げたりすることで冷却速度を加減する操作をして冷却作業をします。
また、冷却速度を最適にするとともに、均一に冷却させる必要がある場合には、油温やソルトバス自体の温度をコントロールしたり攪拌をしたりして調節しますが、冷却材の品質や冷却性能を定期的に管理して焼入れ性能を維持することが重要です。
最近は水冷しなければならない鋼種は減ってきていますが、焼入れのための冷却水の水温が高ければ冷却性能が低下しますので、20℃以下にするのが望ましいのですが、現在、水槽の使用は高温焼戻し脆性回避のための焼戻し後の冷却や特殊な焼入れ品以外は使用することはほとんどない状況です。
また、その他の冷却では、当社でも過去に行っていた(今は行っていませんが) 水溶性ポリマー溶液を焼入れ油の代わりに用いる方法や、いろんな冷却液を噴霧して品物の冷却速度をコントロールしているところもあります。
常温以下に冷却して、残留オーステナイトの低減や経年変化を防ぐための処理をするサブゼロ槽には、−75℃程度の温度には液化炭酸ガスまたは電気冷蔵庫を、それ以下の温度(クライオ処理と呼ばれます)は液化窒素を用いて冷却します。 焼戻しをしたあとの冷却では、その効果が低減しますので、焼入れ直後に品物が常温になった時点で処理することが一般的です。 しかし、大きな品物の場合には、焼き割れを懸念して、低温の焼戻しをして焼入れ後の組織変化を安定させた後にサブゼロ処理を行う場合もあります。
普通は断熱構造の専用設備(サブゼロ槽やクライオ槽)で処理しますが、大きなものでは木枠を組んでドライアイスとアルコールを用いてサブゼロ処理をすることもあります。
最も多く用いられている加熱設備の温度測定は、熱電対(サーモカップル)を保護管に組み込んだものを炉の中に入れて各部の温度を測定します。 熱電対は先端(熱接点といいます)が加熱されると起電力(直流電圧)が発生し、それを温度に換算します。 当社で用いる熱電対は「K熱電対」と呼ばれるNi,Cr,Al(アルメル−クロメル)合金や「R熱電対」と呼ばれる白金やロジウムの合金のものが多く、高温で使用されると、保護管、熱電対ともに劣化しますので、定期的に総合的な温度検査したり、時期を定めて取り換えています。これは、使用後の熱電対単体の検査が大変なためもあって、このために、相当の維持費がかかっているのが現状です。
サブゼロ用など低温測定用には白金測温抵抗体を利用しています。 これは、温度によって白金の温度抵抗が変化するのを利用しており、精度が高いことや経年変化が少ないという特徴があります。
温度計や記録計はデジタル機器が主流になりつつありますが、時間経過に沿って見やすいものにするために、記録計はアナログ的なグラフ表示をさせて使っているものがほとんどです。 近年ではパソコンと連携させて常時に温度を監視しながら記録を個別に取り出すなど、かなり便利なものになっています。
そのほかには光高温計や輻射(放射)温度計などがあります。鉄鋼の熱処理においては、精度面や校正の手間などの点で劣るために、当社でも操業用には使用していませんが、日々いろいろ改良されており、今後は、適材適所で使用されていくでしょう。
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